2017年05月13日

国連「拷問禁止委員会」による「日韓慰安婦合意の見直し」勧告について


 国連の拷問禁止委員会が“韓国政府に対して”出した勧告の中に「日韓慰安婦合意の見直しを求める」という項目があったことが話題となっている。
 この委員会は、政府提出の報告と委員会側の報告者の報告を基に、長時間にわたる厳しい議論(というより尋問)を経て勧告をまとめる。
 委員会は10ヶ国から選ばれた10人の独立専門委員(この分野の有識者であって、国を代表する者ではない)で構成され、現在の委員は、デンマーク**、フランス、イタリア、モルドバ、アメリカ*、メキシコ*、中国、ネパール、モロッコ*、チュニジア出身(** 座長、* 副座長)である。
 今回の場合も、移民労働者の人権、北朝鮮との関係など、韓国政府が厳しく追及され、多くの勧告を出されている中の1項目である。
 端的に言えば、ここで批判され、注文を付けられているのは第一に韓国政府なのであり、「慰安婦合意」についてということで、日本人が変な反応をするべきではない。これを受けて、韓国政府から改めて申し入れがあれば真摯に対応すべきなのは当然であるが。
 以下に、報告の該当部分と日本語訳(寄藤訳)を示す。


CAT - Convention against Torture and Other Cruel Inhuman or Degrading Treatment or Punishment
60 Session (18 Apr 2017 - 12 May 2017)

Concluding observations on the third to fifth periodic reports of the Republic of Korea
韓国の第3回から第5回までの定期報告に関する最終的な監察結果

C. Principal subjects of concern and recommendations
C.主たる懸念事項と推奨事項

Redress for victims of torture and ill-treatment
拷問や虐待の被害者のための救済

47. The Committee is concerned:
(a) While welcoming the Agreement reached at the Republic of Korea-Japan Foreign Ministers’ Meeting on December 28, 2015, and taking note that there are still 38 surviving victims of sexual slavery during World War II, that the Agreement does not fully comply with the scope and content of its general comment No.3 (2012) on the implementation of article 14 of the Convention, and fails to provide redress and reparation, including compensation and the means for as full rehabilitation as possible as well as the right to truth and assurances of non-repetition;

47. 委員会は
(a) 2015年12月28日の日韓外相会合で合意が成立したことは歓迎するが、未だに第二次世界大戦中の性奴隷の生存者が38人いることに留意すると、(この合意は)条約第14条の「条約の履行に関する総括コメントNo.3(2012)」の範囲と内容を完全に遵守しておらず、真実(を究明すること)と二度と繰り返さぬ保証の権利、できるだけ完全なリハビリテーションのための手段と補償を含む、救済と賠償を提供することもできていない。

48. The State party should:
(d) Revise the Agreement of 28 December 2015 between the Republic of Korea and Japan in order to ensure that the surviving victims of sexual slavery during World War II are provided withredress, including the right to compensation and rehabilitation and the right to truth, reparation and assurances of non-repetitions, in keeping with article 14 of the Convention;

48. 締約国(韓国)は、
(d) 2015年12月28日の韓国と日本の間の合意を見直すこと。
第二次世界大戦中の性奴隷から生き残った犠牲者に対して、条約第14条に従い、補償とリハビリの権利、および真実の究明、賠償および二度と繰り返さぬ保証の権利を含めた救済措置が提供されていることを確実にするために。

http://tbinternet.ohchr.org/_layouts/treatybodyexternal/SessionDetails1.aspx?SessionID=1108&Lang=en

posted by Cheshire Cat at 16:59| Comment(0) | 世界の動き

2017年05月10日

東アジアにおける「日本孤立」の危険性

 5月2日、筆者は日経紙の 「トランプ氏、ASEANに対北朝鮮で協力要請」 という記事を受けて、 Twitter で次のように(連続)投稿した。(「続き」は削除、段落は整形)

 日本メディアは、相変わらず「封じ込め」「包囲網」など“敵と味方”に単純化した報道しかしない。
 しかし、トランプは、成功した企業経営者であり、その行動原理は、政治的理念や特定の世界観に基づいて「世界を変える」のではなく、眼の前の現実的課題を“大胆に”解決することである。
 だから、国民の見えない不満を捉え、煽ることで「大統領に“なる”」ことに成功したのだが、大統領としての「仕事」では、未だ殆ど成果を挙げていない。 (日本と異なって)正しく国民を代表する「議会」と、三権分立が(これも日本と異なって)正しく機能している「司法」の壁に阻まれて。
 国際関係における彼の関心は、「米国に損害を与える国かどうか」の一点に見事に絞られ、その国の権力構造や国内の人権状況にはほぼ無関心である。 このことも、彼が理想主義者でも狂信者でもなく、見かけはエグいものの本質的には「問題解決型」の人物であることを示している。
 仮にトランプー金正恩会談が実現し、かつてのイランと同様に「核開発の一定の抑制と“透明化”」で合意、北朝鮮が米国敵視をやめるということになればどうなるか。 トランプー習近平関係の進展から見て、米国がむしろ朝鮮半島から距離を置き、中国に“任せる”可能性すら出てくるのである。
 安倍政権のもとで、“官民を挙げて”続けてきた北朝鮮敵視、嫌韓、反中の煽動は、既に欧米メディアがとりあげるほどの酷いレベルにある。 米中関係の動向次第では、日本が東アジアで絶望的な孤立に陥る危険も決して小さくない。 政府、メディアはそのことを自覚しているのだろうか。

 そして、5月8日深夜には以下のようなニュースが伝えられた。

日本経済新聞 電子版 2017/5/9 1:12
【北京=永井央紀、ワシントン=永沢毅】
 トランプ米政権が中国に対して、北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄すれば金正恩(キム・ジョンウン)委員長を米国に招いて首脳会談に応じ、北朝鮮への武力侵攻などもしないとの方針を説明したことが分かった。中国は米国に経済援助などにも応じるよう促すと同時に、北朝鮮には米国の方針を伝えたもよう。複数の外交筋が明らかにした。
 米国は北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄した場合に「4つのノー」を約束すると説明した。(1)北朝鮮の体制転換は求めない(2)金正恩政権の崩壊を目指さない(3)朝鮮半島を南北に分けている北緯38度線を越えて侵攻することはない(4)朝鮮半島の再統一を急がない――との内容。
 ティラーソン米国務長官は3日の講演でこうした方針を公表、中国にも水面下で伝えたという。4月上旬に米フロリダ州で行った米中首脳会談後とみられる。トランプ大統領は「環境が適切なら(金氏と)会ってもいい」と述べ、将来的な米朝首脳会談の可能性をにじませていた。
 中国は米国に対し、北朝鮮を説得するには前向きな提案も必要だとの考えを説明。朝鮮戦争時の休戦協定を平和協定に切り替える交渉や、経済援助の実施、国交正常化交渉の開始などにも応じるよう求めた。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDC08H3U_Y7A500C1MM8000/


 5月10日早朝、韓国大統領選で、リベラル派のムン・ジェイン候補の当選が報じられ、フランスでマクロン大統領、韓国でムン・ジェイン大統領がともに圧勝で誕生することが確定した。
 ここまで、現地からの冷静な情勢分析はほとんど無視して、世界が「足並み揃えて極右化」という方向で盛んに煽っていた日本メディアや“政治評論家”たちに漂う「当てが外れた感」が笑える。
 このムン大統領誕生によって、冷えかけていた中韓関係は確実に回復に向かうと予測される。 さらに「言葉」とは一致しない隠れた柔軟性(何でもあり!)をもつトランプ政権の今後の動きによっては、先に述べたような「米ー中ー北朝鮮」の新たな関係改善の可能性もより現実化してきたと言える。
 この状況に慌てた安倍政権は、早速「北朝鮮ミサイル危機:避難指示の改善」「慰安婦合意は絶対見直さず」などと再度煽り立て、「寿司友メディア」に報道させている。  
 しかし、このようなことを続けていると、中韓に対する安倍政権の歴史修正主義や攻撃的態度ばかりがどんどん突出し、日本が東アジアで孤立する危険が一段と高まることになる。

 世界から見れば日本も「東アジアの一国」でしかない。また、この2国が日本の産業・経済活動において最早欠くことの出来ないパートナーであることも厳然たる事実である。
 今の日本の“極右”の人々の意識の底には、明治期のそれよりもさらに歪んだ「脱亜入欧」欲求があって、それがいわゆるネトウヨや巷のレイシストたちを元気づけ、「中韓、相手にせず」といった気分を醸し出しているようである。
 それが、幻想であることを超えて暴走すれば、文字通り「国を滅ぼす」ことになることを、決して忘れてはならないだろう。
(10日に Twitter で(連続)投稿した記事と一部重複しています)
posted by Cheshire Cat at 16:25| Comment(0) | 日本の政治

2017年04月19日

地方創生担当相の暴言の背後にあるもの

 地方創生担当という奇妙な役職の閣僚が「暴言」事件を起こした。

 この件で重要なことは、政府の閣僚が「博物館・美術館に“学芸員など居なくて良い”」と公言したことであり、二条城で生け花が許されたかどうかなどという瑣末なことではない。
 この人物は、「博物館や美術館の成果・評価を決定する最大の要因は“学芸員”という専門職の質と量である」という先進国なら当然の常識を、真っ向から否定したのである。

 実は、日本ではこのような「思想」が意外に広く共有されている。
 おそらくは、15年戦争時と戦後の高度経済成長期に形成されたものと思われ、戦争中の「進め一億火の玉だ!」、高度成長期の「24時間戦えますか?」という言葉に現れるような価値観で測って、体力の劣る者・戦闘意欲に欠ける者等が就く価値の低い職種、と決めつけたことが未だに残存しているのだと考えられる。
 学芸員にとどまらず、図書館司書、保存文書等の管理専門職(アーキビスト)などが、一様にこの“差別的視線”の対象となっている。

 問題は三つの側面を持つ。
 第一は、そもそも博物館・美術館、図書館、文書館といった機関が、国家・国民の歴史と未来にとって極めて大切なものであるという基本的な教養の欠落である。
 第二には、それらの機関で中心となって働く専門職の人々に求められている高度な専門性、その仕事の重要性をまったく認識していないことである。
 そして第三には、それらの機関が「対象とする文化財」と「専門性をもった職員組織」と「必要な設備・機能を備えた施設」という3つの不可欠な要素で構成されるという認識の欠落である。
 これらの無知・無教養は、大阪の橋下が世界的に評価の高かった「国際児童文学館」の専門職員を解雇し、資料だけを府立図書館に保存させ、九州某市の市長が市民の公共財産であるべき公立図書館を新古書店企業に丸投げ(挙げ句にその関連企業に天下った)した事例などに如実に現れている。

 遠く遡れば、本来上記の3要素を統合した意味である、ライブラリー、ミュージアム、アーカイブという名称に、図書、博物、文書と全て「建物」だけを指すかのような訳語を当てたことから始まっているのかもしれないが・・・。

 メディアは相変わらず「生け花ができたか?」といった瑣末なことにしか目を向けず、この閣僚が「学芸員という専門職の存在そのものを否定した」事実には目を向けようとしない。
 大手メディア企業のサラリーマン記者たちも、実は同様の差別意識を隠し持っているのかもしれない・・・。

posted by Cheshire Cat at 02:08| Comment(0) | 日本の社会